アメリカ大統領選挙における政治広告: デジタル広告はありかなしか?
皆さんは「政治広告」という言葉にどういったイメージを持っていますか?
日本ではあまり馴染みのないものなので、想像がつきにくいかもしれません。
アメリカでは政治広告は盛んに行われ、アメリカ政治を理解する上で大変重要な要素の一つです。
11月に迎える2020年アメリカ大統領選挙に向けても、各候補者が巨額の金を政治広告に費やし、国民へのアピールを積極的に行なっています。
じゃあそもそも政治広告ってどういうものなの?今回はここ数年で影響力を帯びてきた「デジタル広告」に特にフォーカスしながら解説していきたいと思います。
政治広告ってなんだろう?
アメリカでは、大統領選挙の候補者が有権者にアピールする選挙活動の一つとして選挙広告が重視されています。
日本の様な選挙カー等がない代わりに、道路沿いや支持者の庭先に掲げられる候補者をアピールする看板や、個別訪問や電話での選挙活動が伝統的に行われてきました。
それに加え、政治広告が新聞やラジオ、テレビといった様々なメディアに掲載され、歴代の大統領選挙に大きな影響力を与えてきたのです。
近年注目を浴びるデジタル広告
アメリカにおいて、政治広告の舞台の中心は伝統的にテレビでした。
ジョン・F・ケネディがTV放送を政治界の舞台に持ち込んだ先駆者といわれています。
それが21世紀に入り、インターネットの使用が広まったことにより、大きく変わっていきます。
最初のきっかけは、2008年の大統領選挙。当時の民主党候補であったバラク・オバマがインターネットをアメリカ政治界に持ち込みました。
そして皆さんの記憶にも新しいであろう2016年の大統領選挙では、SNSを初めて積極的に自身のキャンペーンに取り入れた共和党候補のドナルド・トランプが大方の予想を裏切り優勝、世界中を賑わせましたね。
2016年大統領選挙ではSNSが勝敗の鍵だった…⁈
世界中を驚かしたトランプ大統領の誕生を巡って様々な考察が今までなされてきています。様々な要因がこの衝撃の結果を生んだことは間違いないですが、彼の勝利がSNSの巧みな利用に大きく助けられた事は否定できません。
選挙活動資金における45%ものの金額を、トランプ陣営はインターネット上のデータ解析やデジタルマーケティングに充てました。
SNS上の拡散力においても、当初の劣勢を逆転させ、2016年には民主党候補のヒラリークリントンとの圧倒的な差をつけて、有権者にアピールしていました。
2020年大統領選にデジタル広告はどう影響する?
トランプによって政治におけるSNSの存在感が突然高められた訳ですが、現在では民主党か共和党に関わらずSNSを筆頭とするデジタル広告は政治家にとって非常に重要な政治広告のツールとなりました。
今回の大統領選挙において、デジタル広告には2016年大統領選挙時の約三倍もの金額が注ぎ込まれると推測されています。
新型コロナウィルスのパンデミックが未だ収束を迎えていない状況で政治活動が制限される中、今回の大統領選挙におけるインターネットの影響力は更に大きいものになると言えるでしょう。
デジタル広告、ほんとうにあり?なし?
その一方で、アメリカ政治においてどんどん肥大するデジタル広告の存在感に警鐘を鳴らす声も聞かれます。
インターネット上の政治広告に反対する人々の理由は様々ですが、主要なものを挙げてみたいと思います。
・信頼性の低い情報の広告が制限されにくいこと
・過激な内容を含む政治広告が一般企業の広告と隣接して表示される恐れがあること
・政治広告のターゲットを的確に絞り込むため、インターネット上の個人情報やビッグデータが利用される恐れがあること
・候補者及び候補者陣営以外の第三者が、特定の候補者の為の政治広告を掲載する事が容易なこと
実際にこういった懸念を裏づけする様なスキャンダルが2016年大統領選挙では沢山見られました。
重要な事件を二つ挙げてみましょう。
ケンブリッジ・アナリティカ社というデータ分析会社の協力のもと、カスタマイズされたトランプ陣営の政治広告を掲載するために、ユーザーの権限なしに個人情報が利用されていたことが判明しました。
また、ロシア政府が約100,000米ドルをアメリカ大統領選挙に介入するためにFacebook上の広告に使っていたことが明るみに出ました。
こういった様々な問題が浮き彫りになる中で、SNSを運営する各社は対応を迫られていました。
政治広告、野放しにはしておけない⁈各社の対応は…!
先陣を切ったのはツイッター社。
2019年10月に全ての政治広告の掲載の禁止を発表しました。
さらに大統領選期間中は(10月20日から11月下旬)リツイート機能を引用リツイートのみに制限することを発表。同社はデマ拡散防止を目的とし、全てのユーザーが制限の対象となります。
グーグルも同年11月に、表示対象をターゲティングした政治広告に対する規制方針を発表しました。
それと対照的な立場をみせたのがフェイスブックでした。
言論の自由を根拠として、政治広告を容認する従来の方針を変えない立場を示しました。
他社の方針と一線を画したフェイスブックの対応は大きな議論を呼び、「フェイスブックはファクトチェックをしないのか」と批判を受けることとなりました。
これを受け、フェイスブックは2020年9月になって方針の転向を表明しました。
新たな方針の下では、投票日の一週間前から政治広告の新しい掲載が制限されます。またあまりにも早く不明確な勝利宣言がなされた場合は、投稿に注意喚起のラベル表示を行うということです。
インターネット上の政治広告は、今後も様々な議論を巻き起こすでしょう。
あなたは、政治広告は言論の自由を守るために制限されるべきでないと考えますか?
それとも誤情報や過激な広告が人々の分断を煽ってしまわないように制限すべきだと考えますか?
今回のアメリカ大統領選挙をきっかけに、少し考えてみてはどうでしょうか?
あなたもインターネットを利用して米大統領選挙を観察してみよう!
今回はアメリカ大統領選挙における「政治広告」について、特に最近影響力を増すデジタル広告に注目して解説してきました。
候補者と有権者の距離感を今までより格段に近づけたインターネットとSNS。
その一方で、その利便性の裏に潜む様々な問題点は今日大きな議論を引き起こしています。
「まあ、自分には結局関係ないなあ…」て思ったかもしれません。
でも私たちもインターネットを利用して、アメリカ大統領選挙にもっと詳しくなれるんです!
先ほども述べたように、今日ではSNSは候補者が有権者にアピールをする絶好のステージ。今回の大統領選挙も例外ではありません。
共和党候補者ドナルド・トランプ、民主党候補者ジョー・バイデン両者がツイッターを筆頭とする様々なSNSで日々自身のメッセージを世界中に発信しています。
彼らの日々のSNSでの発言をチェックすると、
・彼らの今日のアメリカにおける主要な問題(新型コロナウィルス対策、人種問題、銃規制など…)についてどういった立場をとっているのか
・どういう自分を有権者に売り込みたいのか(今までの自分の業績は何か?大統領になったら何を最優先に取り組むか?)
・どの様な有権者に自分をアピールしたいのか(マイノリティー?富裕層?農家?)
…がよく見えてきます。
彼らのSNSを毎日追ってみることで、皆さんも次期アメリカ大統領の座を狙う2人の候補者の人物像についてもっとよく知ってみませんか?
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