選挙プランナーの視点から見た参院選と若者の投票率|松田馨氏インタビュー

選挙プランナーの視点から見た参院選と若者の投票率|松田馨氏インタビュー

2019年夏の参院選、投票率は戦後最低から2番目の投票率を記録しまいました。その選挙に“戦略家”の立場から関わった方がいます。

ivoteは候補者のPRやコンサルを行っている株式会社ダイアログで選挙プランナーとしてご活躍されている松田馨さんにインタビューをしてきました。

そもそも選挙プランナーとは? 松田さんから見た今回の参院選は? 若者の著しい投票率低下をどう受け止めているのか?

色んな視点から、参院選を振り返っていきます。

選挙プランナーとは?

株式会社ダイアログ代表 松田馨さん

まずはじめに松田さんはどういったお仕事をされているのですか?

私は選挙プランナーという肩書きで、2006年から選挙に関わっています。選挙プランナーとは、候補者の当選に向けて様々な助言を行うのが主な仕事です。いわゆる選挙のコンサルタントですね。日本ではあまりなじみのない仕事ですが、アメリカなどでは結構メジャーな職業だと言われています。日本では30年ほど前に、三浦博史さんが初めて「選挙プランナー」と名乗って、従来のカンや経験に頼った選挙のやり方ではなく、科学的な根拠に基づいた選挙のやり方を広めていったと言われています。

具体的にはどのような仕事を行っていますか?

主な仕事内容は3つあります。

1点目はコンプライアンスです。政治活動や選挙運動は、公職選挙法や政治資金規正法に則って行われるので、これらの法律の下で何ができるかをアドバイスしています。特に公職選挙法はわかりづらいこともあって、ちゃんと条文を読んで理解している方が少ない。陣営から違反者を出さないように講習会を開くこともありますし、公選法では認められているが、あまり知られていない手法などを提案しています。

2点目は候補者のPRと差別化です。選挙では候補者の魅力が、有権者にしっかりと伝わるようにしなければなりません。候補者の想いや考えを聞いた上で、有権者が選びやすくなるように他の候補者との違いが何かを明確にします。そこから、クライアントの良いところをアピールできるようなキャッチフレーズや、演説の内容についても考えて提案しています。

そして3点目は、プロジェクトマネジメントです。選挙の投票日は大体決まっていますので、投票日から逆算して「この時期はこれをする」という、スケジュールを提示します。予算に関しても、選挙の規模感に応じて通常はこれくらい必要になる、という目安を掲示するように意識しています。特に選挙に初めて立候補する方に喜ばれますね。

PRや差別化では具体的にどのようなデータに基づいたプランニングを行うのですか?

総務省や自治体の選挙管理委員会などがまとめて公表している過去の選挙結果や有権者数といった公開情報から分析するものと、弊社で独自調査を行って分析するものがあります。

公開情報からは、特に過去の選挙の投票結果や開票結果を見ています。国政選挙だけでなく、地方選挙についても調べてみると、その地域の人たちがどういう投票行動をしたのかが分かります。例えば◯◯党の基礎票はどの程度あるのか、どういった選挙で投票率が上がりやすいのかなどの傾向を分析して、その地域の特色を調べます。

独自調査では、主に電話とインターネットを活用した情勢調査を行います。クライアントの要望に基づいて調査設計を行い、分析することで重点ターゲットや地域を明らかにします。

戦略とは、リソースをどう配分するかです。分析結果を用いて、限られたリソース(予算、人員、時間)をどのように配分すれば、票を最大限まで伸ばすことができるのか考えています。

【2019年参院選を振り返って】低投票率の原因

株式会社ダイアログ代表 松田馨さん

総務省の発表では、2019年参院選の投票率は48.80%でした。今回の選挙について振り返ってみるといかがでしたか?

基本的に投票率は下がると思っていました。理由の一つは「亥年の選挙」だからです。12年に一度、春に統一地方選挙を行った後、夏には参議院選挙が重なるため、党や団体が選挙疲れで動きが鈍くなると言われており、投票率が下がる傾向にあります。

個人的には、50%は切らないのではないかと予想していましたが、公示後に京都アニメーションの事件や吉本の件といった世間の耳目を集めるニュースもあり、全国的に参院選に関する報道量が減少してしまいました。報道量が減ると、投票率が下がるという研究結果もありますので、今回は報道量が少なかったことも低投票率の要因だったのではないでしょうか。

また、事前の報道でも、自民党が圧勝する報道が出ていました。ある程度勝敗が見えている選挙区も複数あり、接戦ではないため与党の支持者も野党の支持者も投票する動機が薄かったと考えられます。このように様々な要因が重なったことで、今回の参院選の投票率が下がったと考えられます。

【若者の投票率について】全く票田ではない

今回に限らず、若者の投票率は低い傾向があります。この問題に関してはどう思われますか?

やっぱり投票に行ってほしいですね。特に若い世代は、自分と政治は無関係という意識を持っている方が多いのではないかと思いますが、無関係な人は一人もいません。毎年たくさんの法律や条例が成立し、社会のルールが変わっています。消費税などの税金も納めているわけですから、決して他人事ではありません。

特に若者はこれから就職して、結婚して、子育てをするようになるなどライフステージが大きく変化していきます。残りの寿命を考えると、若い人の方が今の政治が決定したルールや方針に影響を受ける時間が長い。 自分たちにとって、より良い社会を実現するためには、投票で自分たちの意志を表明してほしいと思います。

現実には、若い世代の有権者数はそもそも高齢者よりも少ないので、若者の投票率が70%程度まで上がったとしても、それだけで選挙結果が覆ることはあまり考えられないという分析もあります。ですから、若者が投票に行くだけで、大きく変わるとは言えません。

しかし一方で、18歳選挙権が導入された際は、各党が若者の票を意識して、奨学金関連の政策を提言し始めるようになりました。仮に若者の投票率が上がれば、今まで以上に各政党が若者を意識した政策を打ち出してくるなど、リターンが返ってくることは期待できます。

-選挙プランナーの立場からは若者はどう見えていますか?

若者はそもそも人口が少なく、かつ投票率も低いので、ほとんどの候補者にとって票田ではありません。18歳の投票率が全体の投票率を上回ったのは、初めて選挙権が満20歳から満18歳に引き下げられた2016年の参議院選挙のときだけです。特に20代の投票率は絶望的に低い。候補者は人生をかけて、勝つか負けるかの大勝負に打って出ています。そうした候補者を支える選挙プランナーという立場からすると、投票に行く可能性が低い層にリソースを割くような戦略は取れません。

どうやって関心をあげることはできますか?

難しいですね。即効性があって効果が上がるものはなかなか思いつきません。今の公選法のルールのなかで考えられるのは、すでにいくつかの地域で実施されていますが、大学や駅前などに期日前投票所を設置することです。大学であれば、投票に行くなら授業への出席とみなすとか、会社であれば半休を出すといったインセンティブも多少は効果があると思います。あとは、公選法の改正が必要ですが、不在者投票の手続きがもっと簡素化すると良いですね。

【これからのビジョン】公選法と民主主義

株式会社ダイアログ代表 松田馨さん

最後に松田さんの夢を教えてください!

公職選挙法の改正ですね。今の公選法は設計も古く、問題点が多々あります。主権者である国民が一票を投じるにあたって、どうすれば選びやすくなるのか、どうすれば死票が減るのか、そういった観点からの改正が必要だと感じています。

個別訪問の禁止や、若者が嫌いな(苦笑)選挙カーの規定も変えるべきです。日本の選挙制度のように厳密な選挙期間を規定して、事前運動を禁止するというのもわかりにくいので廃止したいですね。

有権者が候補者を選びやすくなり、かつ候補者が有権者に政策を伝えやすくなるような、開かれていて参加しやすい選挙制度に変えていきたいということがまず一点

もうひとつは、有権者の意志が反映されやすい投票制度に変えていきたいです。私たちは、民主主義=一人一票が正しい思っていますが、選挙が主権者である国民の意志を反映するものだと考えたときに、死票(落選した候補に投票した票)が出る今の方式が良いとは思えません。例えば、3人が立候補した市長選挙で、A候補に4割の人が投票し、B候補とC候補にそれぞれ3割ずつの票が入ったとします。今のルールでは当選するのはA候補ですが、A候補を選ばなかった6割の有権者の意志は死票となり、反映されません。

一人一票でなけばれ、どうするのか。有名なものに「ボルダルール」というものがあります。3人が立候補したら「1位に3点、2位に2点、3位に1点」と入れていく仕組みです。こうすれば死票は出ませんし、1位と2位に多く選ばれる候補が勝てるようになります、より有権者の意思を反映させるために、一人一票を見直すべきだと考えています。

しかし、現実にはこれらを変えるのは相当難しいと感じています。だから“夢”とも言えます。

編集 中尾太一・正生雄大

取材を終えて

選挙プランナーの「データに基づいて選挙に勝たせる」視点から見た政治が、極めて現実であることを思い知りました。

若者政策の実現を「べき論」の観点から振りかざすのはある意味簡単です。一方でそれを実現するためには、現実の生き死にがかかった選挙の先に、実現したくなるだけの“利益”を示さなければなりません。

これは「どうすれば若者が選挙に行くか」を考える時も同様です。現実の生活なかで、選挙にいくだけの“利益”を示す必要性があります。

一方でその利益は、人々の考えや、価値観と無関係ではありません。自分の想いが伝播して、現実の政治の無視できない“うねり”となり、利益として位置づけられることもあるはず。その意味で「べき論」は無力ではありません。

若者政策の実現にしても、選挙制度改革にしても、若者を選挙に行かせるにしても。現実のメカニズムを理解して利益に結び付けると同時に、なぜ自分がそこに価値を置き、そうす「べき」だと考えるのかを、突き詰めて考える必要があると感じました。

正生 雄大

株式会社ダイアログ代表 松田馨さん (中心)ivoteの中尾(左)正生(右)

松田馨さん Twitter

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