アメリカ大統領候補者の TV 討論会は1960年から続いており、国民の注目度も高く、選挙戦の 山場といえます。ところが、今年の TV 討論会は米メディアに「史上最悪」と評され、CBS のアンケ ートでは69%の人が「イライラした」と回答しています。
いったい今年の第一回 TV 討論会はどのようなものだったのでしょうか?詳しくみていきましょ う。
アメリカ大統領選2020候補者
ドナルド・トランプ氏
2017 年に第 45 代(現職)大統領に最高齢で就任し、2期目を目指して 2019 年6月 18 日 に出馬を表明。2020 年8月 24 日に共和党から正式指名されました。
ジョー・バイデン氏
選挙時の年齢は 77 歳。2019 年4月 25 日に出馬表明し 2020 年8月 18 日に民主党から正式 指名されました。
二人の候補者がどんな公約を掲げて選挙戦を繰り広げているのか、気になる方はコチラをチェッ ク!!(リトルさんの記事のリンクをここに入れたいです)
クリス・ワラス氏 フォックス・ニュースの司会者。今回の討論会では、進行役と質問の考案を担当しました。
「史上最悪」の理由
一番の理由はやはり、お互いにかぶせて喋ったり、相手への批判の応酬になったりしたことでしょ う。例えば、バイデン氏は、トランプ氏に対して「黙ってくれるか?」「こんなピエロ(バカ)とは 話ができない」。別の場面で、トランプ氏はバイデン氏に対して「大学をビリの成績で卒業した人に 頭の良さについて言われたくない」といって応酬。お互いを「嘘つきだ!」と非難しあうシーンもあ りました。
また、トランプ大統領が白人至上主義グループについて問われた際、FBI にテログループと認定さ れている Proud Boys(プラウド・ボーイズ)に対して「下がって待機せよ。」と発言したことも問題に なっています。
「史上最悪」と酷評された第一回 TV 討論会。進行役のクリス・ワラス氏も「私は真剣な討論に向け て精いっぱい準備していたので、いらいらした。」「米国民にとっては、もっといら立たしい状況で あり、その点の方が重要だ。国民は自分たちに値する討論を視聴できなかったのだから。」と憤りを 隠せません。
第1回TV討論会
なんだか暗くなってしまいますが、気を取り直して本題です! 今回の討論会の議題を一つ一つみていきましょう!
※ここではできるだけ候補者の発言をそのまま引用し、必要な場合は( )などで補足しました。訳は筆者に よるものです。
最高裁判事の指名
アメリカの最高裁は、終身任期の8人の判事が、違憲立法審査を行う権威ある組織です。
先日、ルース・ベーダー・ギンズバーグ氏が亡くなりました。新しい判事が必要です。そこで、共 和党は保守派とされるエーミー・コーニー・バレット氏を推薦することに。
バレット氏の推薦が承認されれば、8人の判事うち5人が保守派となり、共和党有利の最高裁にな るといえます。
実は、オバマ前大統領の任期後半にも最高裁判事に欠員が出ました。しかし、その時、共和党は 「選挙が近すぎる。選挙が終わるまで待つべきだ。」として主張して指名に反対しました。
選挙戦真っただ中の判事指名、二人の候補者はどのようにとらえているのでしょうか?
我々は選挙に勝った。だから、判事を指名する権利がある。
アメリカ国民は最高裁判事選ぶのに意見を言う権利がある。そしてそれは選挙を通して行われ る。すでに選挙が始まっている今は、選挙の結果を待つべきだ。
私の任期は3年ではなく4年。そしてバレット氏は素晴らしい人物だ。
(9人目の判事を設ける可能性があるか、という質問に対して)その質問にどう私が答えようと 問題になる。国民の声を聴くべきだ。
この後はバレット氏が反対しているオバマケアについての議論が続きました。
新型コロナウイルス
アメリカは先進国で最も、新型コロナウイルスに苦しんでいます。国内死者総数は 人に上り、 いまだにロックダウン中の州もある中で、いままでのコロナ対応に対する評価や、これからの政策に ついて議論が交わされました。
アメリカの人口は世界の4%なのに対して、新型コロナウイルス感染者の20%がアメリカ人 だ。毎日750~1000人の人が亡くなっている。このことに対して、トランプ氏は「そういうも のだ。」といっているが、これは彼のせいだ。彼は2月の時点でこのウイルスの危険性を知りながら、人々にこれを伝えなかった。 彼は習主席を称賛した。あとはただ待っていただけで、いまだにプランをもっていない。私は3月に はプランを提示していた。
あなたの言うことに従っていたら、国境は開け放され、何百万もの人が亡くなっただろう。20 0万人ではなく。 これ(新型コロナウイルスの感染拡大は)中国の過失だ。 私が国境を封鎖した時、あなた方は「人種差別主義者だ」といったではないか。 (感染症研究の第一人者である)ファウチ氏や、民主党の議員たちも私の対応を称賛している。
新型コロナウイルスに関する問題は国民の関心が高く、議論も他のトピックに比べて充実したものだ ったと感じました!
経済
コロナウイルスの感染拡大前、トランプ大統領の任期中、雇用は順調に増えていました。また、経 済活動が再開され始めてからも、市場は想定されていたよりも速く回復しています。
日本経済はアメリカ経済との結びつきが強いので、気になるところですね!注意深く見ていきましょ う!
V 字回復している。下がったのは中国の責任だ。人々は民主党政権のシャットダウンにより、ドラ ッグ、アルコール依存などに苦しんでいる。しかし、国を再開したことで、史上最高の経済である。
K 字回復である。つまり、富裕層はさらに富み、あなた方のような人々は苦しんでいる。彼は職の 数を減らして退陣する史上初の大統領だ。全米の半分の州が症例の数で重大な上昇を喫している。感 染症問題を解決しない限り経済も回復しない。
トランプ政権下での経済回復、トランプ氏は V 字回復、バイデン氏は K 字回復だと主張していま す。これは、自由な経済を推す共和党候補と、貧困層への支援を重要視する民主党候補、という典型 的な構図といえるでしょう。
人種差別
根深い黒人差別の問題。3月にはジョージ・フロイドさんが警官に首を押さえつけられてなくな り、大規模なデモ活動に発展しました。日本でも、自分たちが偏見を持っていないか、省みよう、と いう動きが広がっていますね。さらに、新型コロナウイルスの犠牲者にはアフリカ系アメリカ人が多 いことから、差別やそれが生む経済格差が浮き彫りになっています。
今回、アフリカ系・アジア系アメリカ人のカマラ・ハリス氏が民主党の副大統領候補者となってい いますが、さらなる変化が求められている問題です。
トランプ氏は可能なすべての材料を使って人種的な分断を読んでいる。 (トランプ氏はアフリカ系アメリカ人への貢献を語るが)彼はアフリカ系アメリカ人のためには実質 何もしていない。 この国の司法システムはアフリカ系アメリカ人を不当に扱っている。ほとんどの人(警官や検察官な ど)はいい人だが、悪い人が現れた場合には責任をとらせなければならない。
バイデン氏はアフリカ系アメリカ人のことをスーパープレデターと呼んでいた。 この国の人は法と秩序を望んでいる。私は、軍やローエンフォースメントグループの支持を得てい る。バイデン氏は急伸左派の支持を失うから、その言葉を言えさえしない。 (アフリカ系アメリカ人に対する)構造的差別の問題は私が解決した。 レイシャルセンシティビティのプログラムをやめたのは、それが人種差別的で、悪い思想を植え付 けているからだ。
このセグメントではトランプ氏が白人至上主義者グループに「下がって待機せよ」といったり、バ イデン氏のウクライナ問題を追及したりシーンもありました。
地球温暖化
40°Cを超える暑い日、甚大な被害をもたらす台風、オーストラリアやアメリカ西部での山火事な ど、異常気象は年々深刻さを増しています。そんななかトランプ大統領は昨年パリ協定を脱退し、 「地球温暖化はフェイクニュース」と発言。バイデン氏はオバマ大統領の元で地球温暖化対策に尽力 してきましたが、大統領になったら何をするのでしょうか?
私たち若者の未来に大きくかかわる問題なので、特に注目したいテーマです!
きれいな水や環境が欲しい。それはうまくいっているし、経済に大打撃を与えてもいない。パリ 協定は大災害だったので、脱退した。カリフォルニアの火事は森林の管理不足の問題だ。 オバマ政権のクリーンパワープランは、電気料金を高騰させていたのでやめた。
クリーンパワープランでは、再生可能エネルギーの価格をさげることができた。環境保全は、雇 用を創出する。経済にダメージになるということはない。経済はより安定したものになる。 パリ協定に再加入する。現状では、洪水やハリケーンへの対応にたくさんのお金を使っている。
バイデン氏の雇用と環境保全の政策に関しては議論がヒートアップし、ワラス氏が「ストップ!」と いって両者を止めることもありました。
郵便投票の整合性
「大事な大統領選だけど、多くの人が集まるし、新型コロナウイルスに感染しそうで怖い…」
そんな不安から、大規模に適応されることになったのがこの郵便投票です。すでに選挙者登録されて いる人全員に投票用紙が配られている州もあり、今回の選挙では重要な役割を果たしそうです。しか し、従来の方法より開票に時間がかかる、不正投票が行われるのではないか、との懸念もあります。
選挙の正当性を保証する投票制度についての議論はどのようなものだったのでしょうか?
人々は問う投票方法を選べるべきだ。郵便投票が不正を呼ぶという根拠は全くない。投票所で投 票したい人はそうできるようにする。皆さんどうか投票してください。
4 年前私が勝った時は権力の譲渡は全く起きなかった。クリントン氏の陣営は私をスパイしてい た。郵便投票は大災害である。民主党支持の地域では、投票用紙が 2 枚配られている。これは不正な 選挙である。私の支持者には投票所に行って注意深く見守ってほしい。
両候補、郵便投票への評価は正反対ですが、正統性の確保された選挙を通して、平和な権力の譲渡が 行われるように、議論を深めてほしいものです!
おわりに
この記事では、1時間半にわたって行われた TV 討論会を詳しく振り返ってきました。多くのアメ リカ国民が注目する政治的イベントなだけに、重大な課題が話し合われていて興味深いものでした ね。一方で、批判合戦にとどまり、実のある議論がなされなかった、という一面もあります。
第二回 TV 討論会は、トランプ氏のコロナウイルス感染発覚により中止され、ラリーの TV 中継の 視聴率を競う形となりました。
アメリカは今後どうなってしまうのか、世界にどんな影響を与えるのか… アメリカ大統領選挙からは目が離せません!
第1回TV討論会の動画はこちら
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