【日本の安全保障とミサイル防衛】前編:核兵器とミサイル防衛

政治コラム

ミサイルや核と言われると何を思い起こすだろうか。北朝鮮のニュースが真っ先に頭を過るのではないだろうか。

それではミサイル防衛(以下MD)と言われると何が思い浮かぶだろうか。北朝鮮のミサイル発射実験に関連してなにか自衛隊が出動して、イージス艦やPAC3といった物々しい雰囲気を醸し出す映像が頭をよぎるだろう。

日本のMD体制はその2つによって構成されていると思って間違いない。一方で北朝鮮のミサイルに対して、どこまでの知識を持っているだろうか。そして日本のMD体制はどのような体制で、どのような課題があるか想像できる人は少ないだろう。

そんな中で、イージスアショーアシステムの設置には2基で6000億円の金額がかかると聞くと高い!と感じて、反射的に反対になってしまっていけない。

これは安全保障以外にも言えることだが、単純な金額だけで判断することは愚かである。その内容をよくよく把握して本当に必要かどうか理解する必要性がある。

安全保障は普段の生活には見えない事かもしれない。しかし、有事の際にあればよかったでは遅い。よく安全保障は家の鍵にたとえられる。泥棒が入ってからでは遅いのだ。日本の鍵はセコムが必要なのか、それとも南京錠だけでもいいのかよく考えるべきだ。

その一助としてMDについて理解してもらえれば幸いだ。

MDとは

 MDとはMissile Defenseの略称で日本語ではそのままミサイル防衛のことを指す。ブリタニカ国際辞典の解説では以下のような解説がなされている。(以下MD)

アメリカとその同盟国を弾道ミサイルの攻撃から守る防衛システム。

2001年に G.W.ブッシュ大統領が明確な構想を打ち出したもので,1990年代半ばに立案されたアメリカ本土ミサイル防衛 National Missile Defense;NMDと戦域ミサイル防衛 Theater Missile Defense;TMDを一本化した。

弾道ミサイルの発射を人工衛星やレーダーなどで探知し,迎撃ミサイルやレーザー兵器で撃ち落とす。弾道ミサイルが目標に達するまでを,発射され加速上昇中のブースト段階,弾頭が大気圏外を飛行中のミッドコース段階,弾頭が大気圏に再突入し地表へ向けて落下中のターミナル段階の3段階に分け,いずれかの段階で迎撃する。

ミサイル防衛計画はABM制限条約[1]に抵触するため,アメリカは 2002年に同条約を脱退した。[2]

日本のミサイル防衛体制

日本におけるMDは主に北朝鮮のミサイル開発を受け、その脅威に対処する形で整備が進められてきた。北朝鮮のミサイルは日本を射程に収めており、ミサイルの脅威にさらされている現状である。

防衛省による日本のミサイル防衛体制の説明は以下の通りである。

わが国は、弾道ミサイル攻撃などへの対応に万全を期すため、平成16年度から弾道ミサイル防衛(BMD:Ballistic Missile Defense)システムの整備を開始しました。

現在までに、イージス艦への弾道ミサイル対処能力の付与やペトリオット(PAC-3:Patriot Advanced Capability-3)の配備など、弾道ミサイル攻撃に対するわが国独自の多層防衛体制の整備を着実に進めています。

また、我が国を常時・持続的に防護できる能力を抜本的に向上させるため、平成29年12月19日、国家安全保障会議及び閣議により、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)2基の導入等を決定しました。

図1

MDとは「主に弾道ミサイルに対応するための防衛システム」と理解できれば十分である。

核という力

 ここまでは辞書的・簡易的なMDについて触れたが、そもそもミサイルからの防衛という事項を理解するには対象である弾道ミサイルと核兵器についてある程度の理解をしなければならない。そこでまずは簡単に核兵器が現状国際的にはどのように制限されているか等を非常に簡略的にではあるが記述する。

核兵器の歴史

我が国は唯一戦争中に核兵器を投下された国である。このことから国民の多くは核兵器に対してある程度の認識を持っている。しかし、その視点は基本的に核兵器自体の被害などに絞られている。

そこでまずは核兵器がどのように運用されているかを記述する。

まず、核兵器を世界で初めて開発したのはアメリカである。1945年に人類史上はじめての核実験と核兵器の投下が行われた。このような背景からアメリカは常に核先進国としての地位を保持し続けている。開発から暫く核兵器はアメリカによって独占されたものであった。

しかしながら1949年ソ連が核兵器の開発に成功し、アメリカによる核兵器独占の時代に終止符を打った。その後英仏、中国が順次核兵器を開発することになる。

その後この五カ国以降の核兵器保有を禁止する核拡散防止条約(NPT)が1970年に発効することになる。[4]

 このように国際的に核兵器を禁止する流れが存在する一因としては核兵器の破壊力が甚大であることや核兵器そのものが国際人道法に抵触する恐れなどがある。[5]しかし、すでに核兵器を開発した国から核兵器を放棄させることは非常に難しい。すでに保有している国すべてが放棄するか互いに疑心暗鬼になるいわば囚人のジレンマ的構造や安全保障体制に核兵器そのものが組み込まれている現状容易に核兵器を禁止することは難しいだろう

核の運用


 次に核兵器そのものの運用はどのようになされているのか記述する。

図2[6]

  基本的な核兵器の運搬方法は3つ存在する。1つ目は戦略爆撃機である。簡単に言ってしまえば長大な航続距離を持つ航空機によって核爆弾を運搬する。2つ目は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭部分に核兵器を搭載し運搬する。3つ目は潜水艦に小型の弾道ミサイル(SLBM)を搭載し運搬を行う。

図3戦略爆撃機B52とB2[7]   図4ICBM[8]        図5 SLBMと潜水艦[9]

 なぜこのように核兵器の運搬方法が多岐にわたる理由は相互確証破壊という体制が関与してくる。相互確証破壊とは端的に言えば核攻撃を受けた場合報復を行うことで確実に相手にもダメージを与える。そのために最初の一撃を受けたとしても確実に核戦力を生き残らせるために多様な核の運用手段があるのだ。この背景からソ連とアメリカの間では、弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM条約)が結ばれた。この条約は名の通り、相互確証破壊の前提を覆しかねない迎撃ミサイルを制限するものであった。[10]なおABM条約は2002年にアメリカが脱退し、事実上効力を失った。この背景にはアメリカはミサイル防衛体制の強化を図ったためである。この影響は現在のミサイル防衛システムの開発や発展の出発点となる。

日本を取り巻く核

 現在の日本から核と言えば真っ先に北朝鮮が浮かぶだろう。しかし、日本周辺のアメリカ・ロシア・中国・北朝鮮と韓国を除く隣国ほぼすべてが核保有国であるというのが実態である。

図6[11]

 東アジアにおける核情勢は他地域に比べてかなり緊張した状況下にある。特に北朝鮮の核開発にはアメリカが反応をしており、潜在的核戦争の可能性は世界で東アジアが一番高いとも言えるだろう。また、核兵器以外であって軍拡競争は中国に誘発される形で、アジア各国が行っているため潜在的な危険性は非常に高い。核弾頭でなかったとしてもミサイルの弾頭が化学兵器や生物兵器であれば甚大な被害を受ける。原子力発電所に着弾すれば福島原発事故の比でない被害がもたらされることは想像に難しくない。このような状況が日本のMD体制の構築を後押ししている。

図7[12]

 世界に視点を移すとNPT上認められている核兵器国5か国とその後核開発を行ったインド、パキスタン、北朝鮮が核兵器を保有している。また、イスラエルは核兵器の保有を否定も肯定もしていない曖昧な態度を取っている。核兵器は世界中で配備されており、近い将来に核が廃絶される可能性は非常に低い。

前編まとめ

 ここまでは基本的なミサイル防衛とその背景にある核兵器の存在を簡略的にではあるが述べた。ここでおさえて欲しいのはMDの根幹は核を中心に生物・化学兵器等を積んだ弾道ミサイルを迎撃するために構築されているという事だ。また、日本の置かれている状況は決して楽観できる状況ではなく、このことがMDを進めていく背景にある点を抑えて欲しい。後編においては、実際に日本のMDと欧州のMD体制を比較検討し、MD体制そのものの課題についても記述する。



[1] 弾道弾迎撃ミサイル制限条約のこと。相互確証破壊を担保するためにミサイル防衛を制限していた。

[2] 出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

[3] 画像・引用:防衛省HP https://www.mod.go.jp/j/approach/defense/bmd/(最終閲覧2019/04/19)

[4] 未署名国はインド、パキスタン、南スーダン、イスラエル。また北朝鮮は脱退宣言を行っている

[5]この点に関しては軍事目標主義に合致した状況下での使用も想定されることから人道法違反でないとする主張も存在する。また核兵器の存在そのものに関してもICJ勧告的意見の中では核兵器の禁止を明言する国際法規はないとしている。

[6] 画像出典: 日刊工業新聞2017/12/26 「米、トマホーク後継の核巡航ミサイル開発へ 太平洋配備で日本と協議」より https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00455784?twinews=20171226

[7] 画像出典:https://www.military.com/equipment/b-52-stratofortress

(最終閲覧2019/4/25)

[8] 画像出典:https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/icbm.html

(最終閲覧2019/4/25)

[9] 画像出典:「Russia ordered the development of a new SLBM submarine-launched ballistic missile」よりURL:http://www.navyrecognition.com/index.php/news/defence-news/2016/august-2016-navy-naval-forces-defense-industry-technology-maritime-security-global-news/4269-russia-ordered-the-development-of-a-new-slbm-submarine-launched-ballistic-missile.html(最終閲覧2019/04/23

[10] 弾道ミサイルが迎撃されてしまえば、弾道ミサイルが迎撃されないように大量のミサイルを配備するという軍拡競争につながる恐れがあった。このことから当時のソ連とアメリカの間で、弾道ミサイル迎撃を制限するABM条約が結ばれた。なおABM条約は2002年にアメリカが脱退し、事実上効力を失った。

[11] 図引用 恵谷治, 他, 2017

[12]図引用 恵谷治, 他, 2017

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