経験豊富な政治家 vs. 政治とは無関係のビジネスマン。前代未聞の対決となった2016年の大統領選挙は、アメリカ国内だけでなく世界中から注目を浴びました。ファーストレディや国務長官を務め、米国史上初の女性大統領の期待もあったヒラリー・クリントン氏(民主党)を破って当選したドナルド・トランプ氏(共和党)は、初めは「本気じゃないでしょ」「彼が当選するなんてありえない」等とからかわれていました。しかし、トランプ氏の勢いは増すばかり。一体なぜ政治未経験の彼が大統領選挙を勝ち抜くことができたのでしょうか?あと数ヶ月で大統領選挙2020を控えている今こそ、前回の選挙を振り返る絶好の機会です!
メディアの活用
ほぼ全ての家庭にテレビやスマートフォンがある現在、自身の知名度を上げる一番手っ取り早く効率的な方法はメディア露出です。メディアに多く取り上げられると視聴者に名前や顔を覚えてもらえるようになり、それだけ自分の存在をアピールできるということになります。そこに目をつけたトランプ氏は、あることで一気に注目されるようになりました。
意図的に大きな論争を巻き起こすような発言をすることで、ニュースメディアの間で話題となったのです。例えば「メキシコとの国境に大きな壁を作る」という大胆な政策を約束し、世間を騒がせました。他にも、女性に対して侮蔑的な発言や白人至上主義を煽るような発言を繰り返し、様々なニュースメディアから批判を受けると共に話題の中心にもなりました。雑誌 The Atlantic の調べによると、1年にもわたる選挙活動期間中にメディアがトランプ氏の名前を挙げたのは合計 200万回を超え、対するクリントン氏は約72万回と桁違いの結果でした。
また、トランプ氏はSNS(特にツイッター)を積極的に選挙活動に取り入れました。SNSアカウントを持つ政治家の多くはSNS担当者を雇い、専門的なアドバイスや広報戦略に沿って発信しますが、トランプ氏の場合は全てのツイートを自分で打って管理していました。よりアカデミックな単語やフレーズを用いる他の候補者のツイートと比べ、トランプ氏のツイートは身近な話し言葉やびっくりマーク等を多く使用しているのが特徴的です。
“Make America Great Again!”
「アメリカを再び偉大に」。トランプ氏の選挙活動のスローガンにもなったこのメッセージは、多くの国民の心に響きました。しかし、それは白人至上主義的な考えや、全てにおいてアメリカを第一とするような行き過ぎた愛国心へと繋がり、トランプ氏の “Make America Great Again” はそれを正当化したとも言えます。例えば、トランプ氏は不法移民がアメリカ人の仕事を奪っていると訴え、多くの白人失業者がそれに同意しました。ところが、それがすぐにヒスパニック系アメリカ人や合法移民、難民に向けた人種差別へと発展し、社会的な問題を巻き起こしました。それでも、一部のアメリカ人の心の奥底にある不満に応えるように “Make America Great Again” のメッセージを発信し続け、トランプ支持者が次第に増えていきました。
「隠れトランプ」の存在
トランプ氏は選挙活動中、移民や女性の人権を無視する発言や、差別的考えに基づく暴力(銃の乱用など)を庇う発言など、度々問題的な主張を繰り返していました。それが彼の本心であったかどうかは分かりませんが、長年黙っていた「隠れトランプ」を誘き出すことに成功し、強力な支持層を獲得しました。
多くの人が感じていた怒り、不信感、恐れへの理解をトランプ氏が示したことで、ずっと社会の目を気にしていた保守的な人々がやっと解放され、「よく言ってくれた!」とトランプ氏をヒーロー視したのかもしれません。トランプ氏はこの勢いを上手く利用し、共和党内での人気を集めて正式な候補者として指名されるまでになったのです。
ロシアの政治介入?
トランプ氏は共和党派の支持を得ていましたが、対戦相手のクリントン氏も強力な民主党派の支持層に支えられていました。そのため、2016年の大統領選挙は無党派層によって大きく動かされました。
トランプ氏がとった戦略はクリントン氏のイメージダウン。候補者討論会では彼女が今まで政治家として犯した失敗を取り上げたり、彼女のことを “nasty woman”(嫌な女)と侮辱したりしました。しかし、彼女の人気が落ちた最も大きな出来事は、選挙活動中に浮上した「私用メール問題」です。
クリントン氏が国務長官在任中に公務で私用メールアカウントを利用していたことが発覚し、極秘情報も含まれていたこと等を挙げて法に触れる可能性があるとして捜査されました。これにより、クリントン氏への国民の信頼は急落しました。「私用メール問題」はクリントン氏のメールアカウントがハッキングされたことにより浮上しましたが、これにはロシアが関与していた可能性が指摘されています。
他にも、ロシアが陰で様々なSNSを使ってクリントン氏を批判したり、彼女に関する嘘の情報を流すことで大統領選挙に関与していた疑いがあります。この一連の出来事にトランプ氏が関わっていたか否かは未だ捜査中ですが、ロシアの政治介入が彼の当選に多大な影響を及ぼしたのかもしれません。
終わりに
今年の大統領選挙では、トランプ氏が再び共和党の候補者指名を受けました。対する民主党はジョー・バイデン氏を指名。
トランプ氏は2016年と同じような勢いや迫力を見せることができるのでしょうか?この4年間の間で支持者を増やしたのでしょうか、失ったのでしょうか?トランプ政権に危険を感じてバイデン氏への支持を表明する共和党議員も少なからずいます。そんな中、最後の1ヶ月でトランプ氏はどのような選挙活動を行っていくのか非常に注目です。
参考文献
The Atlantic “The 2016 Candidates Who Are Making Headlines” https://www.theatlantic.com/politics/archive/2015/08/graphic-whos-the-most-popular-candidate-mentioned-on-television/402451/
The Zero/One 江添 佳代子 「ヒラリー使用メール問題を振り返る」https://the01.jp/p0004585/
BBC Newsnight “Did Russia help elect Trump?” Youtube. https://www.youtube.com/watch?v=Yk8YWyihgno
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