野党の都知事選における戦略とそれを規定する国政・地方議会の選挙制度

野党の都知事選における戦略とそれを規定する国政・地方議会の選挙制度

2020年7月5日を投開票日として、東京都知事選挙が行われた。都政における野党は、候補者を一つに揃えるのが、知事という一つのポストを獲得するために、合理的な戦略と言える。しかし、野党からは複数名の候補者が現れた。この記事では野党の思惑を、国政選挙と地方議会選挙の関係から考察する。

また、この記事では政治や選挙のメカニズムを考察し、より良い民主主義へつなげることが目的である。従って、今回の立候補者を含めた、特定の政治家や政党を批判する意図は一切ないことを付言しておく。

なぜ野党候補者が乱立することが異常か

この記事では、2020年東京都知事選挙における現職と支持勢力である都民ファーストの会を与党とする。それに対し、その他の政治勢力を野党と定義する。

7月5日を投開票日として行われた東京都知事選挙は、都知事という1つのポストに対して、当選すれば2期目となる小池百合子氏が現職として立候補した。一方で 野党から公認、推薦、応援を受ける者が、複数名立候補する構図となった。

選好が近い候補者が複数現れると、有権者の票が割れ、議席の獲得に対して非合理的な戦略になる。

例をあげてもう少し説明しよう。例えば議席が1つの、とある選挙区を想定する。保守的な政策を掲げる候補者Aと、リベラルな政策を掲げる候補者がBとCの2名が、それぞれ立候補したとする。そうすると、リベラルな選好を持つ有権者の票はBとCの2者に割れ、結果保守的な政策を掲げる候補者が有利になる。

選挙において、現職が有利である点がしばしば指摘される。(例えば福元.2018)この都知事選の場合、有利な現職に対抗する形で、野党は連携をして立候補者を1人に集約することが、知事への就任に対して合理的な戦略であった。

政治学では、議席Mに対して、候補者がM+1に収斂する法則が知られている。都知事選の場合は、都知事というポストは1名なので、候補者が2名収斂するはずである。

しかし立候補者は、22名と、ある意味異常に乱立した。現実的に議席を狙える候補者を、法定得票率を参考に、10%以上の得票を得たものだと定義すると3名で、わずかに届かなかった得票率9.99%の小野泰輔氏を含めると4名だ。

一見、多様な候補者がいれば、有権者にとって選択肢は増えるようだ。しかし、一つの議席に対して、野党が立候補すればするほど、議席の獲得から遠のくとすればどうだろうか。現実的に当選可能な選択肢は、むしろ現職しかなくなっていく。

もちろん、政策上の立場の違いにより、野党間で候補者の調整が成立しないのも理解できる。しかし、地域の利益を追求する知事選挙であれば、憲法や外交などの折り合いの難しいイデオロギー争点を有する国政選挙よりも、連携が容易な印象を受ける。

現に、2018年時点で自民党と国政野党第一党の双方から、推薦や支持を受ける、保革相乗りの知事の候補者は15名ほど存在していて、全体の約30%だ。党派を超えた知事が誕生することは、少なくとも珍しい話ではない。(曽我.2020)

候補者を出すことは、ある意味現職に対する対抗姿勢を表すことであり、今後知事との協力を築きにくくなる可能性もある。現に、それを嫌ってか候補者を出さない野党も存在した。

それでも野党の候補者が複数立候補し分裂することになったのはなぜか。野党の戦略に対する仮説を提示したい。

野党が独自の候補者を立てる思惑

筆者は、野党がそれぞれ候補者を立てる理由は、次の選挙を睨んでの戦略にあると考える。

次の選挙とは、1年後の2021年に行われる東京都議会議員選挙。あるいは、衆議院選挙である。

戦略の背景にある思惑は2点で、得票数のデータを得ることと、候補者や政党の知名度の向上だ。それぞれ解説する。

まずは、得票数のデータについてだ。政党Aが候補者αを立てたとする。すると、選挙の結果どの地区でどのくらいαが得票を得たかのデータを得ることができる。政党Aは、このデータを元に、次の選挙でどこに何名候補者を擁立するべきか、戦略を立てることができる。

続いて知名度についてだ。都知事選は、候補者の顔や名前、そして政党名がメディアなどにも取り上げられる。知名度は、選挙に当選するために言わずもがな、必要不可欠な要素である。それを獲得するためであれば、都知事選にかかる資金や労力は、そう高くないのかもしれない。

以上の2点が、協力して一つの候補者を立てるのではなく、それぞれが別個の候補者を立てる、動機だと言える。

もちろん、強大な現職の強さに、例え候補者を一人に揃えたとしても、勝機が見えなかったのが野党の頭にあっただろう。現に今回の考察が対象としている、2020年の東京都知事選挙では、小池百合子氏一人で59.7%の得票を得ており、一人で過半数を超えるほどの強さを示した。

そこで野党としては、知事それ自体に当選の可能性が見込めなくても。むしろ、見込めないのが分かっていたこらこそ、国政や地方議会、特に東京都の選挙区で議席の獲得を目指して、党独自の候補者を立てる動機がある。

言い換えると、この乱立の問題は、国政や地方議会で議席を狙う勢力が、多数存在している結果と言えよう。次の章では、なぜそのような勢力が多数存在するのか。その原因を、国政と地方議会に分けて、選挙制度に求める。

なぜ、日本には多数の政党が存在するか

政党制は選挙制度から影響を受ける。 したがって、選挙制度をみていくことで、それに伴う、政党のありかたを理解できる。

選挙制度の分類と、政党制への影響

選挙制度は、一つの選挙区から1人を選ぶ小選挙区制、一つの選挙区から2人以上を選ぶ大選挙区制、政党に対して投票し、得票に対して正党に議席を配分する比例代表制に大別できる。

ただし、比例代表制については、個人の名前を書くことで政党内での任意の候補者の、当選に対する優先順位をあげられるものもある。例えば、日本の参議院選挙が当てはまる。

詳しいメカニズムの記述はここでは控えるが、左の方が二大政党制、右の方が多党制をもたらしやすい仕組みとされる。

小選挙区制-大選挙区制-比例代表制

では、日本はどういう選挙制度を採用しているか、国政と地方議会に分けて解説しよう。

国政の場合

日本の衆議院選挙は、小選挙区制と比例代表制を同時に採用しており、参議院選挙は大選挙区制と比例代表制を組み合わせている。

いずれにせよ、大選挙区制や比例代表制が導入されていることで、それなりに小政党が議席に入り込む余地があるのがミソだ。

2017年に行われた衆議院選挙では7つの政党が、2019年に行われた参議院選挙では9つの政党が議席を得ている。

これら多くの政党が都知事選で、データを収集したり、PRに走るインセンティブ(動機)を持つ。

地方議会の場合

地方議会も、国政と同様に、小政党が議席に入り込む余地がある。今回は、都知事選に引き付けて東京都議会を例に見ていこう。

地方選挙は、小選挙区制と大選挙区制を平行させて選挙が行われている。2017年に行われた東京都議会議員選挙では、議員定数は1~8だった。

議員定数が1つであれば、小政党に入り込む余地はあまりない。しかし、8つの定数に対しては、十分に可能性が見込める。

小選挙区か大選挙区か、大選挙区でも定数は何名か。それによって議会の形成や、政党の戦略は全く異なるが、それが同じ議会に同居しているのは興味深い。

結果、この選挙では7つの政党・会派が議席を手にした。

このように、次の都議会の議席をにらむ多くの政党が、都知事選でのデータの収集やPRに走るインセンティブを持つのだ。

まとめーより良い選挙制度に向けて

これまで、都知事選挙で野党がそれぞれ別個の候補者を擁立する理由を、日本にそれなりに多くの政党が存在することに求めた。それに続き、多くの政党を生み出す選挙制度について解説した。

ポイントは、都知事選挙とその選出方法を見るだけでは政党制のあり方は見えてこず、地方議会選挙や、国政選挙との相互作用を考慮して初めて実態が浮かび上がることだ。

この記事の立場からすれば、小政党を生み出す国政や地方議会での選挙制度が、都知事選に候補者を立てるインセンティブ(動機)を与え、結果都知事選の有権者の選択肢を狭めた。ということになる。

ただし、多くの立候補者が登場したことで、都政に多様な論点と主張、それを巡る議論をもたらしたと、ポジティブにみることもできる。特に、今回は結果が見えている無風選挙と言われていたので尚更だ。

いずれにせよ国政と都政で一貫したニ大政党制が生まれていれば、今回のような立候補者数にはなかっただろう。(もちろん、だからと言って二大政党制が優れているとも言い切れない。)

二大政党制を生み出すには、それを生み出しやすい選挙制度がある。選挙制度は、議会の構成から、政党のあり方まで、大きく左右する意味で極めて重要だ。

同時に、様々な問題。少なくとも論点を抱えている。この記事に関係が深いものでいえば「小選挙区と比例代表、どっちつかずの選挙制度」「小~大選挙区が入り混じる、ちぐはぐな地方の選挙制度」「国政と地方の選挙制度の不均一」などだ。

これらの論点を学ぶ手法として、政治学を学んだことがない人でも、分かりやすい一般書に「砂原庸介『民主主義の条件』東洋経済新報社(2015)」が挙げられる。興味を持たれた方は是非参考にされたい。

筆者からも機会があれば、また是非具体的に噛み砕いて問題提起をしたい。

参考文献・改訂歴

福元健太郎「政治学における回帰不連続デザインを巡る論争 : 現職優位を題材として」経済セミナー(2018)

曽我謙吾『日本の地方政府:1700自治体の実態と課題』中公新書(2020)

朝日新聞デジタル『2020東京都知事選』(https://www.asahi.com/senkyo/tochijisen/2020/kaihyo/ ) 2020.7.13最終アクセス

NHK選挙web『2017都議選』(https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/togisen/2017/)2020.7.13最終アクセス

NHK選挙web『2017衆院選』 (https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/shugiin/2017/#! ) 2020.7.13最終アクセス

NHK選挙web『2019参院選』 (https://www.nhk.or.jp/senkyo/database/sangiin/2019/ ) 2020.7.13最終アクセス

【改訂歴】

誤字を修正しました。(2020/7/18)

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